引っ掛け釣り
引っ掛け釣りというと、シーバサーにとっては「魚を傷つけるだけのひどい釣り」というイメージがあると思う。僕が最初にこの釣りを知ったのは釣り雑誌か新聞の記事だったと思う。簡単に説明すると、あれは狩野川だったか、返しの無いでっかいトリプルフックにでっかいオモリをつけて闇雲に遠投し、スズキを引っ掛ける。ルアー釣りのように天候や魚の習性を理解してこそ、はじめて釣りと言えるのではないか。「あんな酷い釣りは止めて欲しい。」といった内容の記事だった。僕は、その記事を読んで「ふ〜ん。そんな釣りもあるんだ。」ぐらいにしか感じていなかった。そして、そんなことはすっかり忘れ3年近くシーバシングにハマっていた。

この週末、淀川に干潮に合わせてポイント調査に行ってきた。見ておきたいのは、有名な毛馬水門から河口まで。そして、自転車で水門近くまで行った時、はじめて引っ掛け釣りのタックルを持った釣り人を見た。正直、その大きな針とオモリを見たときはちょっとショックだった。そのタックルを持った引退5年目と見える釣り人は初老の男と話していた。僕は、はじめて見るそのタックルに興味を惹かれ彼らのところへ歩いていた。しばらくするとその釣り人は移動したので、その初老の男性に声をかけた。彼は竿を持っていないので、釣りの事が何処まで分かるのか疑問だったが・・・。

「あれって、引っ掛け釣りですよね。ボラを狙ってるんですか。」
「ああ、大体はボラだけど、スズキも釣れるよ。ん?竿、持ってないの?ルアー釣りかい?」

驚いたことにおっちゃんは、僕の一言でシーバサーと見抜いた。

「可愛そうだけど、ストレス発散でやってるんだよ。引っ掛けは。こう、引きをね、楽しみに・・・。」

何も言ってないのに言い訳のような返事。どうやら、ルアーマンにあれこれカラまれてるようだ。

「いえ、ポイントを今日は見に来たんですよ。この辺は大きいスズキで有名ですよね。」
「僕は東京から大阪に転勤したんです。淀川は、はじめて来たんですよ。十三(新大阪から大阪まで電車に乗ると淀川を渡る辺り。大阪出張したことのある人なら分かるでしょうか。)から自転車で、ポイントを見てきたんですよ。」
「へー、十三から・・・」

どうやら、僕も同類であるのを察してくれたらしい。

「うん。春にはルアーマンも沢山来るよ。80センチのスズキなんかもその頃は良く釣れるよ。」
「まぁ、今でも釣れるんだけど、今は干潮だしね。春はテレビでやるから、人が多いよ。テレビでやった次の日なんか凄いよ。」「でも春のスズキは蛭が凄いんだよ。テレビじゃ取ってから、写してるけどね。」
「蛭だらけじゃ、絵に成らないですもんね。」(笑)

「スズキはこことかあの流れとかに居るよ。ただ、スズキは見ると逃げるんだよ。」
「そうですね。こちらの気配がすると見えなくなりますよね。」

どうやら、引っ掛けも闇雲に投げている訳ではないらしい。

「こっちに来てごらん。ここに沈んだバイクがあるんだ。」「あっ、逃げた!見えた?スズキ。70cmぐらいあったよ。」
「いえ、ちょっと遅かったようです。」
「ここに良く大きいのが付いてるよ。ほら、小さい魚が居るの見える?あの辺に居たよ。」
なんと、ヘビーカバーゲームもしているじゃないか・・・。

「最近は、引っ掛けやる人は、殆んど居ないね。ルアーが多いよ。」
「ブラックバスやってる小学生や中学生なんかは、おっちゃんのは引っ掛けるだけで、食わせないから簡単だとか言うんだよ。」
「いや、そんなこと無いんじゃないですか・・・」
「桜の頃には、おばちゃん連中も来るだろう。そうすると、『かわいそう』とか言うけどな。」
「ヘラやブラックバスでもくちびる無いのいっぱい居るし、ルアーでも返しがあるから結構傷つくし、口だけじゃなく色んな所に刺さって、可愛そうなの結構居るよ。コイの吸い込みなんかかなり可哀想だよね。そんなに違わないと思うんやけどなぁ・・・」
「それにあんなに返しのある針があったら、子供なんか危ないだろ。」
「そうですね。セイゴなんか釣った時には、目やエラに針が刺さってることなんか良くありますよ、ルアーでも。僕も返しを潰してますよ。」
「何度かおっちゃんも自分に刺さったことがあるけど、返しが無いからすぐ直るよ。魚も直ってないのかなぁ?」
「そうですね。僕も何度か刺さったことは・・・」

と話していると、自転車で若い引っ掛け氏が来た。歳は、僕と同じくらいか。
真っ先におっちゃんの所に来た。

「なんや、もう来ないかと思っとったで。」
「家族全員風邪引いてるんですよ。文句言われながらも今日は来ました。」

話を聞いていると2日ぶりのようだ・・・どうやら、殆んど毎日来ているらしい・・・
僕は、この同類の言葉に笑いながらも彼のタックルに目を奪われた。まるで、オフショアジギングかGTタックルの様だ。聞くと、自分で改造した竿だそうだ。リールは投げ釣り用のが付いてる。そして、気が付いたのは針が釣具屋で見かけるトリプルフックではない。ダブルフックだ。しかし、ルアーで使われるのと違って、普通の針の背中を張り合わせたような形だ。ハリスも恐ろしく太い。なぜがオモリも一つではなく幾つか束ねてある。それぞれの釣り人が竿を改造し、工夫をしている。彼は引いたときの針の向きが気成るとかで、引いたときの仕掛けの姿勢を考えて作っているそうだ。
「凄いタックルですね。あんなに太い竿を使うんですか?」
「あのぐらいじゃないと、駄目なんだよ。みんな、最初は竿を折ってね。最後はあんな道具になるんだ。」
「草魚とかハクレンを狙うからね。知ってるかい?」
「ええ、名前だけは・・・随分と大きくなるんですよね?」
「草魚は、120センチぐらいの何本も釣ってるよ。」
「えっ!120センチですか?」
「大きいのは150センチとか居るよ。そんなのが掛かると大人3人ぐらいで上げないと上がんないよ。」
「それは、凄いですね。」
「子供達に120センチの釣ったって言っても信じないから、次の日カメラ持っていくけどもういないんだよ。」(笑)
「そんなもんですよね。」(笑)

話していると、さっきの若い引っ掛け氏がポンポンとボラを釣り上げている。

「へー、上手ですね。彼。」
「あいつもはじめて一ヶ月ぐらいだけどな。あっちのおっちゃんはまだ何処に飛ぶか分からんから、気を付けてな。オモリなんか潰れちゃってるよ。合わせた時なんかに魚が乗ってないと岸壁にオモリが当ってな。知らないで近づくと危ないからな。」(笑)

見ていると、どうやらちゃんと狙って投げているようだ。

「ちゃんと、狙って投げるんですね?」
「ルアーは沖に適当に投げてるのが多いけど、引っ掛けは狙わないと釣れないよ。」

なんと、ルアーマンが引っ掛けに対する同じ疑問を持っていたのだ。回遊待ちで、キャストしているルアーマンを見てその戦略の無さに疑問を持っている。もちろん全員ではないが、確かに殆んどのルアーマンが適当に沖に投げてる光景はよく目にする。

「スズキはな沖を泳いでいても、分かるんだよ。ギラッ、ギラッって、光るんだ。ルアーの人は夜来るけど、上手なのが一人居てね。昼休みに、その辺やって何本か釣っていくよ。」
「へー。そうですか。」
「スズキはね、そんなに難しくないんだ。あいつら、まっすぐ進むから。ボラは回ったり急に曲がったりするだろう?だから、結構難しいよ。」
「あっ、駄目だな、ありゃ。」

僕らは、若い引っ掛け氏の釣りを見ながら、話している。

「??」
「巻くのが早いから、水深が合わないよ。」

この時、僕の聞いていた「闇雲に遠投し、スズキを引っ掛ける。」というのは完全に勘違いであることが分かった。恐らく、おっちゃんの言ってるルアーマンと同じく、引っ掛け氏全員がそうではないだろうが・・・。

「おい、あの遠くの奴狙ってみ。あのぐらいのが取れへんと、おもろないやろ。」

どうやら、おっちゃんはここのみんなの師匠らしい。師弟関係というよりは、師匠的存在といった方が良いかもしれない。

「じゃぁ、かなり上手に投げれないと駄目ですね。」
「うん。ピンポイントでね。あんまり近くに投げると逃げるから、離れた所に。」

彼らは、基本的に魚を眼で見つけ、ヒットポイントを想定した上でリーリングスピードとレンジを考えピンポイントで、キャストしているのだ。ルアーフィシュイングと同じではないか・・・。いや、そんなことを考えてキャストしているルアーマンはほんの一握りかもしれない。

「針も変わってますね?」
「釣具屋で売ってるのは3本針だけど、2本の使うんだよ。ポケットに仕舞うのにかさばるしね。」
「あいつのはインターネットで買ったらしいよ。最近はこの釣りする人が減ったから、俺の使ってる2本針も製造しなくなったから、大事に使ってるよ。」
「今は、1つしか針を付けないしね。上の針で狙っているから、どうせ上にしか掛からないんだ。」

そう言うと、おっちゃんは仕掛けをポケットから取り出して見せてくれた。
「うわ、ハリスも太いですね。何号ですか?」
「20号。このぐらい無いと抜けないしね。そういや、ルアーの上手な人は抜くの上手いな。こう、魚が泳ぐの利用してヒョイっとな。」(笑)
「そうですね。慣れれば60センチぐらいならこのぐらいの高さでも抜けますね。」
「ブラックバス釣ってる小学生なんかは、釣ってから『おっちゃん、どうしたら良いの〜。』とか言ってるけどな。」

「他にはどんなの釣るんですか?」
「テレビでな。浜○じ○んなんかが来てマスの放流しに来た事があるんだけど、みんな放したそばから取ってるんだよ。俺もクーラー一杯取ったよ。そしたら、『今は止めて下さい。』って、言ってきたよ。俺なんかは引っ掛けだけどさ。ひどいのは、投網で取ってんのによ。」(笑)
「えっ!引っ掛けでマス取るんですか?」
「うん、なんでもね。取ったことあるよ。マスは美味しかったよ。放してすぐだから、腹に何にも入ってないだろ?ここは下は、ヘドロだから。」
「ここは、チヌやイサキも入ってくることもあるし・・・、鮎も上がって来るだろ、うなぎも居るし、太刀魚も入ってきたことあるよ。昔は秋刀魚も入ってきたことあるな。」
「ここ一面、うなぎが湧いたことがあるよ。大して、引かないと思うだろ?うなぎっても、この手すりぐらいの太いのはかなり引くよ。ビューって走るよ。」
「イルカや鯨も入ったことあるよ。俺は見てないんだけど。」

ちょっと、安心した。見ていたら、この人は引っ掛けてるんじゃないか・・・(笑)

「桜の咲く頃は、鼈を狙っているからここにはあんまり来ないんだけどその時に居たらしいよ。」
「えっ!すっぽん!?ですか・・・」
「うん。すっぽんは、下から真っ直ぐ上がってきて息をしに来るんだ。だから、チャンスは一回。ピンポイントでね。一番難しいと思うよ。他の亀なんかは、斜めに上がって斜めに下がるから簡単だけどね。」
「すっぽんは、噛んだら放さないって言うだろう。でもな、怒らせておいてボロキレ噛ませて首を伸ばして包丁で切るんだけど、切ろうとするとパッと放すよ。」(笑)
「じゃぁ、万が一噛まれたら包丁見せたら放してくれますかね?」(笑)

しかし、どうやら他の亀も引っ掛けているようだ・・・(苦笑)

「後は、鴨ぐらいかな。」
「鴨まで引っ掛けてるんですか!?」
「うん。俺は、どれも殆んど食べないんだけど、何でも喜んで持っていく人がいるからね。みんな、あげてるんだよ。」
「鴨なんか本当は獲ったらマズイんだろ?俺は良く知らないけど。昔は鉄砲の音が十三の辺りでもしてたよ。」

「そういえば、おっちゃんは竿持ってないけど、釣りはしないんですか?」

当然、僕はこの時既におっちゃんが、引っ掛けの名人であると確信しているのだが・・・。

「俺は、たまに竿持ってきて腕が鈍ってないか確かめるのに一尾釣ってね。こうやって、のんびりしてるか、日向ぼっこでもしてるんだよ。」

もう、おっちゃんは、この川を見ているだけで釣りをしているのも同然なのだ。
僕はこの後、おっちゃんに別れを告げた。

「それでは、そろそろ僕、行きますね。色んな話を聞かせてもらって、ありがとうございました。楽しかったです。」
「俺も話をして、気分が晴れったて言うのかな。」

おっちゃんは、この暇そうな若者に優しく言ってくれた。
僕も分かれるのが少し寂しくなって、向こうに歩いていくおっちゃんに声をかけずに居られなくなった。

「また、来ます。」

おっちゃんは、肘から右手を軽く挙げて返事をしてくれた。

僕は、予定していた対岸のポイント調査はすっかり出来なかったが、満足して帰った。
そして、その夜はじめて淀川へウェーデイングに出かけた。
この淀川で40年遊んでいるこのおっちゃんと僕は3時間以上話した。ここに書いていないことも沢山ある。気が付くと立って話していた僕らは、いつの間にか手すりに並んで座っていた。僕は、上手に書けないので標準語にしてしまっているが、もちろん大阪弁である。まるで淀川の近くに住み、長屋の仲間と油を売っているような時間を過ごさせて頂いた。話していると次から次にこのおっちゃんに声を掛けて来る人が居る。若い引っ掛けの釣り人だったり、近所の小学生だったり・・・その馴染み深い風貌は、はじめて会った僕もつい話し掛けていた。人を惹きつける何かを持った人なんだろう。恐らく、もうこの川を知り尽くした名人は、多くの人に知られることは無いだろう。僕は、この歳に成って大阪転勤させた会社を恨みながらもおっちゃんと会えたことに感謝している。

僕はおっちゃんと話して、あの記事に書いてあったような一方的な見解は持てなかった。むしろ、シーバサーの方が雑誌や新聞に踊らされている人が多く、僕の会った引っ掛け氏の方が文化的なものと熱意が感じられた。もちろん、彼らに劣ることの無い素晴らしいシーバサーも沢山知っているし、友人も居る。ただ、彼らを何も理解しないうちから一方的な批判はどうであろうか。少なくとも僕は大きな勘違いをして、長い間過ごしてしまった。もちろん、魚に与えるダーメージは、引っ掛けの方が大きいだろう。しかし、あらゆる釣りは所詮それぞれの人間のエゴで成り立っているに過ぎぬのではないか。正直、僕は引っ掛け釣りを皆に紹介して広めたいとは思わないが、釣りの文化の一つとして無くなって欲しくないと思った。











SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送